至宝の名より[前編]
安倍昌浩と藤原彰子、いや安倍彰子に娘が生まれた。
晴明がこの世を去り、幾年か年がたった。
神将たちは、昌浩を主と認めた。
違えることはない約束を交わし。
晴明を超える力。
今ならわかる。
それが安倍昌浩。
しかし、その膨大な霊力と彰子の見鬼を継いで、さらに力をもてあましているのが、この赤子であった。
「ねぇ、昌浩。」
彰子が生まれたばかりの子供を抱えながら自分の夫の名を呼んだ。
「なに?彰子。」
「この子の名前なんだけどね、私たちが決めるのもいいけれど、みんなに考えてもらってはどう?」
そう、なかなかいい名前が浮かばなかったのだ。
名前は、その子の人生を左右する。
ならば最高にいい名前を。と。
自分たちで浮かばないのなら、昌浩の両親、吉昌や露樹にも案をもらったし、叔父である吉平にも考えてもらった。さらには兄である成親や昌親にも。
それでもこの子にぴったりと決まる名前が浮かばなかった。
そして考えた。自分の大事な式神である彼らならいい名が浮かぶのでは?と。
≪・・・そんな大事なこと俺たちが決めていいことではないだろう。≫
紅蓮が、苦笑しながらいう。
それに続いてほかの神将も首を縦に振る。
「だって、俺の後継はこの子になる。だから神将たちも人事ではない。」
そういってのけた。
姫として生まれたこの子がどれだけ強い力をもってしたのか、言わずとわかる。
今まで、そうやって昌浩が言われ続けてきたように、この子もそれを引き継いでいる。
神将たちは、結局昌浩を認めた。
認めざるを得なかった。
ならば、この少女も、自分たちの主になるのだろう。
いづれ。
≪そういうことでしたら私どもも考えてみます。≫
天一がそういい、神将たちは護衛の紅蓮を残し、異界へと向かった。
「きっと、神将たちなら素敵な名前考えてくれるわよね。」
「あぁ。きっとね。」
そういってこの夫婦は微笑む。
それから三日もしないうちに、神将たちが、名前候補を持ってきた。
そして決まった名は・・・。
六合が出した案らしい。
「そうか、六合が。」
すると昌浩はにっこりと笑う。
そして、ふと考えて六合を呼ぶ。
「六合。ちょっと頼みが」
≪なんだ・・。≫
隠形してつぶやいたが、どうやら、ちゃんと向き合って話をしたいらしい主を見て、顕現する。
「の護衛を六合に。」
「・・・俺はかまわないが。」
「ならよかった。六合一人じゃ大変だろう。女の子だし。天一を、・・・いや天一と朱雀をつけるよ。」
昌浩は愛するものの気持ちを知っている。無理に二人を離すのは嫌うため、何かと天一と朱雀はセットだ。
「それでいいかな?」
そばに控えていた天一と朱雀に問う
「かまいません。」
「あぁ。」
こうして、のそばにいるようになった。