9.失われた力と存在
月の神殿の入り口と人間界との境目に来ると、
胸がバクバクと早まっていくのを感じる・・・。
「様・・・・」
天后の声がかかる。顔を真っ青にしていたらしく
勾陣が、落ち着けと声をかける。
「やっぱり・・・青龍たちも一緒にいったほうがいいんじゃない?」
太陰が言うと、後ろで控えている神将らを見る。
みな、連れて行けと目で訴えていた。
でも・・・・・ここには、父さんも、おじい様も昌浩もいる。
守らなければならない人たちがいるのだ。
「いえ、大丈夫。・・・戦力なら勾陣がいる。・・・それに月の神殿では闘えないから」
月の神殿は絶対に能力を発揮できないのだ。
月の神殿では月の神気のみが発揮できるような月光石というものが使われている。
他の、水、火、木、風、土の神気が発揮できぬよう・・・。
「・・・屋敷を頼みます。」
「あぁ。いってくるといい。ここは儂も昌浩もいるしな。」
「そうだぞ。父さんもいるからな!」
「お前は役にたったためしがないがな。」
と青龍の声がかかると、
いってきますと、声をかけて、境目に乗った。
勾陣と太陰、そして天后がそれに続いた。
中に入ると、絶句した・・・
「気持・・・悪い・・・」
不吉なほどのカラスの羽。
気持悪いほどの瘴気
そして、邪気、妖気、死気、
「・・・・こんなことが・・・聖地が・・・」
「唯一の月の異界である・・・この場所が」
天后は異臭に眉をひそめ、勾陣は怒りで肩を震わせている。
太陰はびくびくしながら、私にひっついている・・・。
月の神殿・・・
泉は、血にまみれ、そこに伏す月の化身たち。
「ひどい・・・月の巫女たちが・・」
母様に使える巫女たちが・・・ひどい姿で死んでいた。
こんな・・・の見たくなかった・・・
「様!あれを!」
天后が、指差す場所には、結晶化したものが。
中には・・・・
「母様・・・・」
私は、凍りついた。
「母さまぁああああああああああああああああああああああああああああ」
結晶に近づくと、母様は最期の力を振り絞って、結晶化して
己の身を守っている。
母様の体からはもう神気も生気も感じられなかった・・・
ただ、亡骸を、守るようにして、結晶化している。
「いやぁあああ」
己の中の神気が消えうせたのは・・母様がお亡くなりになったからなのですね
継ぐ前に・・・そのお役目を消滅してしまわれたのですね。
天后に支えられて、私は母様の結晶に触れていた。
≪・・・・・・ごめんなさい・・・月の力は・・もう消滅してしまった≫
イメージが流れていく。
≪でも・・貴方は貴方には人間の血が流れている。・・・だから大丈夫。貴方は私の子であり昌賢の子でもある≫
≪青龍と、仲良くするのよ・・愛しい人に・・・最後に・・・昌賢に・・・会いたかった。≫
パリッと結晶にひびが入ると、そのまま割れるように散ってしまった。
母様が・・・・死んでしまった・・・
それが信じられなくて・・・
その場から離れられなかった・・・
手に残った・・母様の形見・・・月の結晶の腕輪だけをただひたすら私は握り締めていた。
「・・・・・・・帰ろう。」
「ここは・・・お体に毒です・・・もう聖地ではありません」
神将が声をかける。私はただ、その声に促されて、来た道を戻るだけだった。
[ククク・・・マダイッピキノコッテイタ]
[ツキノメガミノマナムスメ!]
邪悪な声に気づかずに・・・。