5.狸じじいの思惑?




貴船の龍神から頼まれた酒は、藍家の当主からじきじきにいただいたものだそうで、それをもらう代償に、
紛れ込んだ妖を調伏しろ。とのことだった。
しかも、人が足りないという理由で勝手に軍へ連れて行かれた。

こうなるなら言わなきゃよかったよ・・・

「え?陰陽術以外ですか?」
「ふむ。神姫であれば、神の戦うすべも持っているだろうが、人と戦うすべは持っているのだろうか。とな」

神姫といっても神将たちのように人の思念から生まれた訳ではないので、人を傷つけても血塗れといれはしない。
とはいっても、むやみに傷つけることはしたくはない。

けれど、一応戦うすべはある。朱雀や六合、勾陣、太裳など、師は身近にいるのだから。

「はぁ・・剣や弓は比較的やりやすいですが、槍などは苦手ですね。」





六合から槍を教わったときは、槍を振り回しているのではなく。じぶんが振り回されていたものだ。

「ならば、軍に配属しようかの。異界のもの、ということで試験はうけなくてもいい。」
「は?」

≪なにを考えている。≫
≪ちょっと!を利用するつもり!?陰陽術をつかうだけでもかなり霊力や体力を消費するのよ!?≫

玄武と太陰が怒る、闘将は何も言わないが睨みをきかせている。
すると、異界にいた天一と朱雀が近くへと顕現する。

様。昨日のお方がここへ向かっておられるようです。」
「後ろに阿保面を浮かべたやつと不機嫌そうにしている男もついている。遠くに離れてそいつらを見ているものも。」

すると霄太師がうなずき、
「主上と、主上つきのものだな。御史台からはおそらく昨日の謝罪だろう。」




話は一通りついたので、部屋にと、その人たちが入ってきた。
入ってきて、その男たちは口を開いたまま動かなかった。

「?」
「えっと、先日は、すみませんでした。御史台代表で挨拶に参りました。」

たしか秀麗といっただろうか。深く頭をさげている。
そりゃそうだろう、怪しいと判断したものがじつはこの世界を守るものといわれたのだから
「別に気にしてませんお気になさらないでください。」

基本、人見知りがない私は、人を嫌う真似はしたくなかった。
けれど、ここは、異世界でやはり、昨日はこちらも警戒していた。

異世界といっても、おなじ生きた人だから。


すると、主上らしき、人が目を輝かせていった。
「美しい!これほどまでに美しい女人はみたことがないぞ!そう思わないか!?絳攸!」
「・・・俺は女は嫌いだ。」

フンといい、そっぽむくその姿は、どこかでみたかのようだ。

「よは、紫劉輝だ。この国の王をしている。」
「はじめまして。安倍です。たったいま。霄太師にかってに軍に配属された異界人です。」

神将たちを紹介しようかと迷ったが、全員紹介するのも面倒なので、必要に応じたときにでもと思った。
必要があるなら彼らがしていると思ったから




「軍?女人が軍へ?それほど軍は甘くはないと思いますけれど?」
後ろで、主上をまもっているだろうものが口を挟んだ。

「静蘭。ならば、そうだの、藍将軍をよんで、ここにいるものの前で、見極めてみればいいだろう。」

は!?
「ちょ、ちょっと霄太師?」
「それは、いいね、女人だからといって侮ると、十三姫に怒られてしまうからな。」

といい、現れたのは、先ほどの男。

「藍将軍。」
秀麗が、はぁとためいきをつく。どうして都合よく現れるのだろうか。





ここにいる人たちだけのはずだったが、だれからか、聞きつけ、いつのまにか見世物の会場になっていた。

着替えるためにかりた部屋でため息をつく。
「はぁ・・・」

様?どうされました?≫
「天后。ほかのみんなは?」

着替える、と伝えると神将たちはどこかへいった。

≪みな、それぞれの位置へとついております。万が一のときのために≫

主を助け出すため・・・ね。

「それも杞憂だと私は思うけれどね。」
「勾陣。」



修練場というのだろうか。広い場所へとつれていかれると、あちらこちらに隠形した神将の気配を感じる。
近くには勾陣と天后がついている。

≪安心しろ。お前は私たちの墨付きの腕前だ。≫
「あはは。ありがとう。」

手にもったのは、剣。朱雀のような太刀でもなく、勾陣のような筆架叉のように細いそれでもない。
細さは日本刀のそれににている。

「昔を思い出すなぁ。」
≪毎度、騰蛇と青龍があわてていたな。天一は真っ青な顔をして怪我をみていた。≫

本当、神将たちはよくしてくれたから。
剣を教えてくれたり弓を教えてくれたり、と師弟関係のようだったり。
天一に見つからないようにこっそり太裳が治療したり。と。



みんなのしてくれたことが普段あまり見せる機会がなかった。
けれど、これはいい機会だと思う。

私は陰陽術だけではない、ということを実証したい。と思った。

そして、守られるだけじゃなくて、守りたい。

神将たちは家族だから。

大事な。人を。守りたいから。

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