5.最悪な術と似、異なるもの
ご飯を食べ終え、服装を整える。
京都だと着物で外に出歩いてもそれほど変に思われないけれど、
やはり年相応というとこう、私服は洋服がいいなって思う。
着物だと動きにくいし。
小さいころは、父親に無理やりピンクのびらびらのワンピースやら、
何着ものきれいな着物を着せられたりした。
もう着せ替え人形のようだった。
神将たちは似合うぞ、っといっていたけれど。
さすがに私は苦笑するしかなかった。
さすがに中一になってからそれはなくなったけれど。
高校三年生になって、昔を思うといい過去だとは思うけどあまり思い出したくはないものだ。
そんな私の今の格好は、動きやすいロールアップデニムと、華美でない落ち着いた水色のシャツを着ている。
「それで、その恵梨の彼氏は見鬼があるのか?」
紅蓮が聞いてくる。
「たぶんないと思う。」
もともと、恵梨ちゃんは見鬼がなかった人だし、いまもぼんやりと見える程度だ。
神将たちは、考え込む。
「俺たちは念のため隠形していよう。」
「うん。白虎、太陰、玄武。」
異界にいる神将を呼ぶ。
≪時間か≫
「うん。」
恵梨ちゃんと待ち合わせの場所は洋風のお洒落なカフェだ。
ガラス張りのカウンターのところに恵梨ちゃんの姿が見える。
私はゆっくりと入り口の扉を開ける。
中から、ウェイトレスが出てくる。
私は待ち合わせてる人がいるので、といい。恵梨ちゃんのところへといく。
「わざわざごめんね、。」
「恵梨ちゃんの頼みだもの。」
そういってやってきたウェイトレスにカプチーノを頼み、本題に入る。
「それで、壱君は、今日は?」
「うん、ほかの彼女とデートだって・・・。」
悲しそうな顔をする恵梨ちゃん。
こんな顔をさせる彼氏が許せない。
ふと、恵梨ちゃんが口を開く。
「ねぇ、は好きな人いないの?」
「へっ?なんで、いないよ?」
後ろほうで神将たちの視線が痛い。
お店の中で公衆の場だ。神将たちの名を呼ぶわけには行かない。
すると恵梨ちゃんは、じーと私を見る。
「本当に?もしかしたら気づいてないだけかもしれないよ?いかにもあんたって鈍感じゃない。」
「・・・うーん・・・さぁね?」
「じゃあ、身近な人にたとえてみなよ。神将とか。」
すると後ろの方でガタッと音がする。
徒人には聞こえない。きっと神将たちがこけたのだろう。
「えっ・・だって、神将たちは大事だけど家族だし。」
「ひとくくりにまとめるからそうなるんだよ。一人一人向き合ってみなよ。私ね、こういうことになったからには幸せになってほしいんだ。」
すると、隠形している神将たちも口を挟む。
≪それは、我らも同意だ。≫
≪そうね、めったな奴に大事なを渡さないわ!≫
玄武と太陰がいう。きっと腕組んで宵藍みたいに眉間にしわをよせてるんだろうなと思い。
そういえば本人の宵藍はと思い後ろの方をちらっと見てみる。
すると、宵藍と目が合った。
私は思わず、視線を前の方にもどしてしまった。
び、びっくりした・・・。
その様子を恵梨ちゃんがみて、
「なるほど。」
と面白おかしそうに笑っていた。
すると、カフェの目の前を恵梨ちゃんの彼氏が女の子をつれて歩いていた。
それをみて悲しそうな顔をする恵梨ちゃん。
私はその壱君を睨む。
すると、一瞬だが、その壱君から、黒いものが翳って見えた。
「!」
「?・・どうしたの?」
とたん、私の体の底から悲鳴が聞こえる。
[オレノ・・・カラダ・・・カラ]
[オレヲ・・・・ヤメ・・・恵梨!]
脳内に声が響く。
私は頭が痛くなって、持っていたカップを落とした。
一瞬のイメージがこれほどの精神を傷つける。
あれは、とりつかれている。
ちがう。あれは操り人形のように人を操っている。
何かの異邦のもの。
縛魂とは異なるもの。
ひとつの体の中に魂が二つ入り込んでいる。
そして女を食らっている。
真っ青になった私を恵梨ちゃんが、店の中から連れ出して、人気の少ない広い公園へと連れて行った。
神将たちが顕現してもよさそうな場所を選んだのだろう。
「恵梨ちゃん・・・ありがとう」
「何があった。」
神将たちが顕現する。そして眉間にしわを寄せた宵藍が聞いてくる。
この顔は心配という表情だ。
「紅蓮・・・」
「何だ。」
「縛魂ってしってるよね。」
すると、紅蓮は顔があおざめていく。ほかの神将も表情がかげる。
意味がわからない恵梨ちゃんが聞いてくる。
「縛魂って・・?」
「体をのっとり操る術。でも、それとは異なるもの。たぶん異邦のもの。」
すると、紅蓮が少し安心したようだ。彼の過去にあったことは少なからず知っている。
彼は血塗れの神将。その身を二度縛魂の術であやつられ、人を殺めた。
「縛魂であって、縛魂じゃないもの。それであやつって、女を喰らっている。」
「女を食ってる・・・。」
そう、体をとられた壱君は女から何かを喰らっている。
魂であれ、心であれ、これは異邦のものだろう。
「ずっと、恵梨ちゃんをよんでいた。彼の魂が、辛そうに。」
すると、恵梨ちゃんは少し安心したように笑った。
「嫌いになったわけじゃないんだ・・。」
「だが、安心するのはまだ早いだろう。」
「あぁ、操られているということは、切り捨てられる可能性だってある。」
勾陣と紅蓮がいう。私はにっこりと微笑んで恵梨ちゃんを安心させる。
「大丈夫。私が何とかする。必ず。」
大事な大事な神将と、大事な大事な家族。
そして、大事な親友を守る。
それが私が私をかけてもしたいことだから。
この身が滅びても。
大事な人たちは守るから。