10.対決のとき





貴船で、互いの思いがわかった。
が、なにぶん、なれないことで…。

あの、感覚が、いまだに唇に残っている。

あのあと、いつから覘いていたのか、神将と恵梨ちゃんが貴船まできていたのだ。

見られた。見られた。
神将の主ともあろうものが、神将たちの気配に気づかないくらい油断していたのだ。

恵梨ちゃんから祝いのことばはもらったが。



それにしたって、朝6時に総出でくることないじゃない!
太陰にからかわれたり、勾陣にからかわれたり・・・
大変だった。

「それにしても…。貴船の景色はきれいだなぁ。」

最近ごたごたしていたし、いつも貴船には呼びつけられていたので、景色をしっかりみることもなくなっていた。
螢も、みたかったな。
さすがに、もういないから。北のほうにいけばいるらしいけど

すると、私の中にはいりこんでいたぴりぴりしたものが暴れだした。

「・・・・っ!?」

様!?≫

太裳がすかさず顕現して、支える。
ぴりぴりしたものが町のほうから来ている感じがする。

頭に浮かんだのは、貴船の入り口に恵梨ちゃんの彼氏さんがきていたこと。
そして、その後の浮かぶ光景。恵梨ちゃんが危ない!




恵梨ちゃんは、本宮のほうだ。

「太裳。本宮のほうへ急いで!」
「わかりました。」

近づくたびに胸のあたりがキリキリいたむ。

近づいている。
近づいている!。

やつが。




本宮につくと、黒いもやもやが覆った壱君の体が。
恵梨ちゃんを守ろうと、玄武が結界を張っている。

その前線で紅蓮と勾陣が戦っている。
あれは雑魚だろう。

しかし、体は人だ。神将が傷けられないことをしっているのだろう。
あの渾沌は窮奇とつながっていた。
ならば樹季羅と麗紕は知っているのだろう。
胸の痛みに絶えながら必死に言葉をつないでいく。
「ナウマクサンマンダ、バサラダンカン!」

無数の風の刃が敵に襲う。
雑魚の大半は崩れ落ちる。







取り込まれている、人たちを助けなければいけない。

「この声は我が声にあらじ。この声は、神の声。まがものよ、禍者よ、呪いの息を打ち祓う、この息は神の御息。
この身を縛る禍つ鎖を打ち砕く、呪いの息を打ち破る風の剣。妖気に誘うものは、利剣を抜き放ち打ち祓うものなり 」

とりこまれた人たちから黒いものが出て行く。

「天一、太裳。貴船全域に結界を。」
≪わかりました。≫
「承知いたしました。」

的確に判断しなければいけない。
ここは高淤の神の聖域なのだから。






「朱雀、天后、白虎、六合は恵梨ちゃんを守って。」
「「「わかった。」」」
「わかりました。」

神将たちは、玄武のはった結界をさらに囲むように位置する。

「太陰、宵藍。紅蓮たちと一緒に。」
「なっ!それじゃ、を守るものがいなくなるじゃない!」

ここは、胸の痛みがつらい。
だけど、それをかばっていて、私を守る神将がいてそれだったらこいつらを早くなんとかできない。
胸の痛みが早く消し去るようにしなければ、樹季羅や、麗紕を倒せるはずがない。




「・・・つ!」
痛みが激しくなった。

-お前、われ等の呪を受けているな。-

-愉快。愉快。-

壱君の中から、2つの妖気が出て行く。
本体か。

「樹季羅、麗紕!」

-ほう、われ等の名をしっているとは。-

-さすがは、方士の血族。-





その言葉に、神将たちが反応する。
方士、それは昌浩様のことだから。

私の前の神将たちの主。

「お前、窮奇の残党か!」
紅蓮が声を上げる。

-あれと一緒にするな!われらは渾沌様の部下だった!-

-異邦。人と妖の子であるわれらをかわいがってくださった方だった!-

合いの子。半妖。






その存在は、人からも、妖からも疎まれる。
そういうことか、認めた渾沌の復讐か。

つまり狙いは最初から私だったのだ。
そのために恵梨ちゃんの彼氏を利用したのだ。

「ふざけるな。そのために、恵梨ちゃんを傷つけたのか!」

-人間を利用してやってるのだ、むしろ喜んでほしいものだ。-

こままでは、窮奇と戦ったときのように神気が爆発しそうだ。
それを必死にこらえる。



むしろ、傀儡につかっていた人から出てきたのだ、これで神将たちが攻撃できる。

「紅蓮!慧斗!宵藍!」

闘将の2つ名を呼ぶ。

「調伏する。」

「援護は任せておけ。」
「十二神将の力、とくと見るといい。」



妖気と神気が大きくなった。
敵は、水と風を使ってきた。

水の蛇が勾陣の足に絡みつく。
そして、風の刃が襲う。

「太陰。風の刃を返して。」
「わかったわ!」

風将である太陰が暴風を起こし、刃を放ったほうへと返す。

-クッ・・・小娘が!-

-ならばこれでどうだ!-




水の蛇が、首へと向かって襲う。
本当にこいつら、情報網が薄いな。

水と風。やつらの力だろう。
けれどその属性はどちらも”月”なのだから。

「その行く先は我知らず、足を留めよ、アビラウンケン!」

氷の破片が本体へむかって足をとどめる鎖となる。
その霊気が蛇を凍らせる。



-クッ-

もう、これ以上続けるわけにはいかない。
天一と太裳の結界もそろそろ割れる。

紅蓮の炎の蛇がやつらを襲い、その後ろを勾陣が筆架叉で切り裂く。
切り裂いたところから出てくる瘴気を宵藍が大鎌でなぎ払う。

-ギャアアアアアアアアアア-

-樹季羅!-

樹季羅は調伏した。あとは、麗紕だけ。


樹季羅を倒したときにぴりぴりしたものが体から出て行った。
ならば、傀儡の術を使っていたのは、樹季羅なのだろう。





-よくも。よくも樹季羅を!-

最後の力を振り絞ってか、強大な瘴気でできた蛇が姿を現す。
瘴気で妖を作れるのか。ならば、違う魂が入り込んでいたのでなく、こういうことなのだろう。


ようやくすべてがつながった。

『ずいぶんと騒がしい。この高淤神の聖域で、騒動を起こすな。』

高淤の神が莫大な神気を放ち、麗紕ともども、消し去った。
高淤の神。ならば最初から調伏してくださればよかったのに・・・。


「高淤の神・・・。」
『なんだ。』
「やるなら、最初から調伏してください!」





周りを見渡すと、近隣の木々は倒れていた。
あぁ、太裳と天一の結界がもたなかったか。

『まぁよいではないか、これはひとつ借りにしておく。どうやら今回の敵は全滅したようだ。』
「はぁ。まぁ解決したようでよかったです。」


あとは、この操られていた人々をどうにかしなければいけない。
私がかけた風の刃で傷だらけだし。

『こいつらのことなら、私が引き受けよう。そいつだけ任せた。』

高淤の神がさしたのは、壱君。
本体を二つもいれていた。さすがにこれは面倒なのだろう。




「わかりました。引き受けます。」
!」

「恵梨ちゃん大丈夫だった?」

玄武の結界で守られていたけど。天一と太裳の結界が持たなくなる前あたりから結界は意味のないものとなっていた。

「うん。大丈夫。六合が瘴気から守ってくれたから。」

ならばいい。今回の依頼はこれで幕が閉じた。

「それじゃ、帰ろうか。」
≪では、私たちは異界にて傷を癒して参ります。≫

たいした傷ではないが、念のためだろう。白虎と闘将以外は、異界に向かった。

「じゃ、白虎よろしく。」
「あぁ。」





今回の件はあっちも悪いとはいえない。
たしかに恵梨ちゃんを悲しませたのは事実だ。

けれど、あの双子の人妖は、唯一の存在をなくした。

けれど、私たちにとって悪いものなら調伏しなくてはいけない。

妖も、人も、くくりをつけているだけで、きっと楽しい気持ちや悲しむ気持ち
つらい気持ちは同じなのだろう。

今回は、そのことを学んだ。
そして、好きという気持ちを学んだ。



人形編完結

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