漆 髪
電話の前でぼうっとしていると、さらに電話がかかってきた。
私は電話の表示を見ないで、そのまま電話にとでた。
「もしもし・・・。」
『もしもし。俺だけど、親父のこと聞いたんだろう。お前なにもしなくていいし、葬式もなにもしなくていいから。というか来なくていい。』
「え・・・ちょっと、まって」
私のことも聞かずに勝手に電話を切ってしまう。
相手は私の兄だ。
どうして。
私のことなにも聞かないの。
私にとっても大事な大事な父親なのに。
でもやっぱりわたしがにくいんだ。
「おい。どうした。」
後ろで腕をくみ、眉間にしわをよせた青龍がきき、勾陣は、じっとわたしを見ていた。
「父さんが死んだって・・。」
そういうと、私は、苦笑して、そのまま座り込んだ。
でも、やはり、葬式にはいかないといけない。
だって兄だけの父親ではないんだ。
そう。兄がほしいのは、実家の権力と、父親の遺産だろう。
そんなものくれてやる。
≪勾陣!西の方角に妖異が!≫
ふと、高い少女の声が聞こえてきた。
「太陰か。すぐに行こう。・・・悪いな。しばらく席をはずす。」
「・・・俺も行こう。」
「いや、青龍。霊力の高いのところに現れたときのためにここに居た方がいいだろう万一のためだ。」
というと、勾陣はすっと隠形していってしまった。
だんだんと眠気がでてきた。
父親のこともあるけど。なんだろう。あの声をきいて一人じゃないんだ。
って、ここには青龍が、勾陣がいたから平常心でいられたのかも知れない。
「・・・眠いなら寝ていろ。どうやら六合も勾陣のところへむかったようだ。ここにはこないだろう。」
というと、すっと私を抱き上げ、ベットの上にとおいた。
「青龍・・。」
「・・・・父親が死んだといったな。なぜすぐに駆けつけようとしなかった。人間とはそういうものではないのか?」
ベットで横たわっているとまぶたが重く感じる
「兄が・・・私を憎んでいるから・・・くるなって言われた・・・私は一人ぼっちだから。親族もいないし・・・」
「・・・・そうか。」
ふと、頭になにかの感触があった。手だ。
青龍が優しく髪をなでていた。
「今は寝ろ。お前の心が乱れている。霊力にも影響がおよぶ。」
私はとうとう、その声に安心して目を閉じた。
最後にうつったのは、青龍の髪の色だけだった。