弐 戦闘



一人で住んでいるアパートに青年をつれてきたものはいいけれど、
人でないこの青年に、はたして薬など効くのだろうか。

何もしないよりはましだろうと、ベッドの上に寝かせて、爪が食い込んでいる腹部をみる。

毒にやられているせいか、爪の周辺が青く気持ちいほどの色になっている。

「どうしよう」

たぶん、この爪を抜いた方がいいのだろう。
毒が体に回りこんでしまうだろうから。

「痛かったらごめんなさい」

意識を失っている青年に先に謝ると、爪を取り出す。
ブッという音をたてて、血が流れ出す。その爪をお客さんが来たときにだす灰皿の上にカランという音をたてておき、
布で腹部を覆う。


どうやら、爪を抜いたことで、少しは楽になったのだろう、顔の色が青白かったのが肌色に少し戻ってきたようだ。



しかし、どうしても腹部の毒は取り出すことができなさそうだ。
どうしよう、と思ったときに、その青年は、苦痛に耐えながら、上半身を起こした。

「ここは・・・」
「大丈夫ですか?」

おきたときに、血が出てきたのだろう、布がだいぶ赤くなっている。
私は急いで、布をとると、新しい布に取り替えた。

「・・・なぜこんなことをした。放っておけばよかっただろう。」
「目の前で倒れられてほっとけることができる人ではないので。・・・爪は抜きましたが、毒が回っているようです。」

青年は、チッと舌打ちをする。
痛いようだ。

「聞いてもいいですか?先ほどの犬はなんですか?」
犬の姿をしていた。けれど、犬の爪にこんな毒があるとは思えない。

「・・・・お前は見鬼・・・霊感があるのから妖くらいみたことがあるだろう。」
「妖怪のたぐい?でしょうか。私は父のつくった結界の中にいたのでよくはわからないんです。その結界もあまり信じてはいませんが。」





自分の父は、寺の住職だった。
兄もいるので、寺を継ぐ必要もないので、結界などのたぐいはよくは知らなかった。

「ここにはお前だけか、」
「一人暮らしですよ?それよりも、貴方の名前をお聞きしてもいいでしょうか?私は といいます。」

青年は、少し黙りこんで、ぼそっと何かをいう。

「十二神将が木将、青龍。」
「十二神将?青龍?・・・・神将ってくらいですから。神様なんですか?」

一応、寺の出のものだ、霊やら、神やらの存在は否定しない。
それに、この青年からは、なにか神々しいというか、なにかそんな感じの気配というものが感じられた。

「あぁ。・・・世話になった。」
すると、青龍は立ち上がる。しかし、傷が痛いのだろう、足取りがふらふらしている。



私は、どうしても、見ていられなくて青龍の腕をつかむ。
「そんな体なのにどこ行くんですか。怪我が治るまでは家にいてもいいのできちんと治してください。」
「いらん。」

とあっさりと却下される。
そんな怪我なのに、どうして無理をするのだろうか。

引きとめようとしたそのとき、私の部屋の窓が割れた。

何事かと、みると、先ほどの犬が襲い掛かってきたのだ。

「さっきの!?」
「ちっ・・」

青龍は舌打ちをすると、どこからか武器を取り出した。
どこかの神話の死神が持ちそうな大鎌。




それを振りかざすと、犬の足にきりつける。

「ククク。その体の毒で思うように動けないのだろう。」
「黙れ」

「い、犬がしゃべった・・・」
私は、腰が抜けて、その場に座り込んでしまう。
危険だ。というのがわかっているのに、どうしても、動くことができない。

「その娘。みたことがあるぞ。お前、我ら血族の忌まわしき陰陽師の生まれ変わりだろう。」
「陰陽師・・・?」

青龍が、ぼそりとつぶやくと私はぎょっとする。
父親が宣言していたことをいわれたから





、お前の前世は、とても、頑固でそれでもやさしい陰陽師が見えるよ。』
『陰陽師?』
『あぁ。父さんにはわかるんだ。その人が教えてくれるから。聞けばその人はあの安倍晴明の・・・・』

幼きころの映像が頭に流れる。
すると、犬が青龍の上をこえ、私に襲いかかってきた。

怖い。コワイ。
条件反射というもので、目を閉じると、別の映像というか、声が聞こえる。
私は、無意識にその声と同じことをいってみた。

「・・・オンアビラウンキャンシャラクタン」

すると、目の前が光、その犬が消滅していた。
ふと、青龍をみると、不思議そうにしていた。
呆然としていた青龍からでたことばは、知らぬ人の名だった。

「・・・昌浩?」

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