第三話 闇の妖魔を退治せよ




「人間なんて嫌い。人間なんて・・・」

ここの世界の人は私の過去を知るわけでもないのに、それでもこんなに震え上がる。

怖い。

コワイ。

頭の中にキィィィィィンと音がする。

それを合図に私は意識を手放した。


『・・・。太裳晴明に』

『わかりました。青龍は様を茵に寝かせておいてください。』

太裳は隠形をするとすぐに主の部屋に報告をしに行った。

[人間が嫌い]ということと、意識が途絶えたこと。


青龍は、ひょいっとを持ち上げ茵に寝かせた。



『人間のお前が人間が嫌いか・・・。』


・・・・・・・・・
『・・・ということが』

「そうか・・・わかった。太裳戻っていい。」

『わかりました。』


ことの次第を聞いた晴明はとても複雑そうにしていた。

彼女にはいったい何が起こっているのだろうか。

つらい過去には何が・・・。

この家には、一応天狐の血がごくわずかだが流れている。

大して人間と変わりはないが、吉昌、昌浩ならば拒絶しないのだろうか。

となると、ここの女性である露樹と彰子姫には拒絶反応が?

わからない。彼女の過去を知るわけではないのだ、対処にも困る。



「ちと、厄介じゃの。」

夕方になれば、息子と孫が帰ってくる。彼らにも拒絶をするとも限らない。

そういえば、わずかだが、自分にも拒絶を見せていたのではないか?とも考え始める。

半分はその血が流れていても、結局は人間として生きているのだから。

これを解決するには高おかみの神に聞くしか手立てはない。

「白虎。少しばかり出かける」
『解った。』



・・・・・・・・・・・・

《ちゃん・・・・ちゃん

ちゃん・・・》

イヤァァアアア!!

《あんたのせいよ!》


止めて

やめてよ


私はいいこにしてたよ


《おい、。
お前の両親いないんだってなギャハハハ》


うるさい


《なら、俺たちがかわいがってやるよ》


離して・・・


止めて


イヤァ・・・

「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアァアアアア」


・・・・・・・・・・

「はぁ・・・はぁ・・・」

『大丈夫ですか?様。うなされておりましたよ?』

「・・・・だ、大丈夫・・・。」

気がつくと、汗がびっしょりと濡れていて、近くに心配そうな顔をした太裳がいた。


『いま、青龍に水をもってこさせました。あぁ、きましたね』

『・・・・飲め。』

「ありがとう・・・。」
青龍から器を受け取ると
ゆっくりと水を流し込む。


『・・・お前・・・何をみた。』

「・・・え?」
様の夢をお聞きしているのです。』


いえるわけがない。
あんな悲惨なこと。

あれは現実におきた過去であるのだから。




「・・・過去。」

『過去ですか?』
「そう、悪夢。思い出したくもない。」


きっと、先ほど露樹さんと会ったからだ。


いやなのに。
ここの人たちは知ってるはずないのに。体が勝手に拒絶する。
心が受け入れない。


すると、襖が開いた。晴明さんだ。
「今よろしいですかな?」

「・・・はい。」


「高おかみの神からのおあずかりしたものです。」

すると、両手くらいの大きさの巾着袋を渡された。

中には・・・

「たま?」

それも、小さいものが10ほど入っていた。取り出して見るとその玉はみるみる私の体の中に吸い込まれていった。

「それは、記憶を覚える玉です。」
「記憶?」

「えぇ、あなたがもし、つらい過去を説明するのに、口に出してはいえないだろうという高おかみの神から預かったものです。」

「口で説明をしない?」

頷き晴明さんは語る。

「とてもつらい過去は口に出しづらい。あなたが本当に信頼し、その過去をみせてもいい。という相手が現れたら、その玉はあなたが望めば、その相手に入り込みます。いわば、記憶を共有する。」

『お前が真に明かしてもいい相手が見つかったらそいつに取り込めということだ。』

「誰・?神様?」

『風将の白虎だ。その玉は入り込んだものに映像として記憶を見せる。入り込んだ相手には理解できても、それを口に出し説明することができない。』

「つまり、他言無用ということです。あなたがもし、神将に心をうちあけたとしても、私には報告できない。あなたが私にそれを望まない限り。」


つらい過去は共有し、乗り越えるものだ。

寄り添えるものがいなければただつらいだけ、お前はその相手がいなかった。


高唹の声が響く。
きっと高唹は未来も見えるから、私がいつか話す相手がくるのだろう。

あの悲惨な過去がほかにもしる人が増えていくのだろう。


「・・・。望まなければだれもしらずに終わるということですね。」


そうつぶやいた瞬間、先ほどみた夢、過去が頭の中を通る。


殴る音。罵声。服の裂ける音。
自分の悲鳴。最悪な風景。


「共有・・・できるわけがない。」


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